Interview

大都市近郊の自然を守り育てる〜都民とともに取り組む保全活動の最前線〜

東京というと都会的なイメージを持つ人も多いかもしれませんが、東京都の全域をみると、実に豊かな自然環境があって、多様な生態系が残されています。なかでも、主に多摩地域に50か所、自然の保護と回復を図るため都知事によって指定されている「東京都保全地域」をフィールドに、生物多様性の保全と自然との共生の実現に貢献しているのが「東京都生物多様性推進センター」です。保全地域の維持管理・貴重な動植物の保全に携わる3名の若手スタッフに、保全活動の意義や仕事のやりがい、都民のみなさんに伝えたいことを伺いました。


中根 基裕さん、池田 織恵さん、片塩 咲耶さん
(公益財団法人 東京都環境公社 東京都生物多様性推進センター保全地域再生係)


ボランティアとともに保全地域を守る

―日ごろの業務内容について教えてください。

中根さん:私たちが所属している保全地域再生係は、「東京都保全地域」の維持管理・貴重な動植物の保全を担っています。現在、主に多摩地域の50か所が保全地域に指定されており、開発行為などが規制されています。その結果として、多様な動植物が生息生育する場所になっています。もし、こうした保全地域がなかったら、生物の種の多様性が失われ、東京の自然環境はもっと単調になってしまうかもしれません。

池田さん:私は当センターの事務所がある立川市を含め、多摩地区の南部の保全地域を主に担当しています。フィールドワークが多く、担当地域を回って、倒れそうな危険木がないかの確認や、希少種の保全業務など、担当地域に関わること全般を担っています。

保全地域の現場に出る機会の多い保全地域再生係の業務

片塩さん:私は主に八王子市を含む多摩地区の西部エリアを担当していますが、今年度は北部エリアも含めて、2か所で自然再生事業を進めています。樹木を伐採して切り株から伸びる芽を育て、樹林を若返らせる萌芽更新に取り組んでいます。

中根さん:最近はドローンを活用したDXにも挑戦しています。枯れている木がどこに何本あるか、上空から効率的にデータを取れないか試行錯誤しています。まだ実用化までは至っていませんが、新しい管理のやり方を探っているところです。

保全地域全体を目配りしながら、事業計画立案や予算管理なども担う中根さん

―保全活動にはボランティア団体の方も関わっているそうですね。どのような形で協働しているのでしょうか。

池田さん:日常的な保全活動は、私たちだけではとても手が回りません。そのため、ご協力いただいているボランティア団体の方々に、講習の機会を提供するのも私たちの大事な業務です。安全管理、チェーンソーや刈払機の使い方講習のほか、生態系に関する知識を深めたいというご要望に応えて、昨年12月には「東京都レッドデータブック」の作成に携わっている方を講師に招いた座学講習を初めて行いました。

片塩さん:ボランティア団体の方々とは、ちょっとしたことでも早めに連絡を取り合うようにしています。例えば、倒れそうな木があると連絡をいただいたなら、まず現地に行って状況を確認し、適切に対処するなど、迅速なコミュニケーションを心がけています。

業務で日常的に自然に触れられることも魅力だと語る片塩さん

中根さん:保全地域によっては、複数のボランティア団体に関わっていただいていることもあり、その場合は団体間、さらに立地する自治体の担当課の方も含めた意思疎通がスムーズに図れるよう、私たちがコーディネーターの役割を果たすこともあります。地域の緑を守りたい思いは一緒でも、多少の意見の違いはどうしても出てきますから、定期的に連絡会議を開くなど工夫しています。

地道な保全活動が実を結ぶ達成感

―業務のやりがいや魅力について伺います。どのようなときに「この仕事に就いてよかった!」と感じますか。

中根さん:生物多様性に関する事業は、短期的に目に見える成果が現れるものではありません。地道な取組が必要です。だからこそ、先日、八王子館町にある緑地保全地域の湿地を整備していたボランティア団体の方から、ほとんど見ることのできなくなっていた希少種が見つかったと連絡があったときはうれしかったですね。

片塩さん:私の担当地域の八王子長房緑地保全地域では、危険木が多くなっていたので、昨年秋頃から伐採を進めたところ、ボランティア団体の方に「安心して活動がしやすくなった」と大いに喜んでいただけて、私もよかったなと思いました。

池田さん:倒木でけが人が出るようなことがあったら大変です。そうしたことのないよう、日ごろから目配りするのも当センターの大事な役割です。事故が起こっていないこと自体が1つの成果とも言えます。夏場の酷暑の日も真冬の寒さが厳しい日も、現場の確認に行っている甲斐があるなと感じます。

担当する矢川緑地保全地域で危険木にマーキングする池田さん。安全管理上欠かせない作業だ

自然体験プログラムからサポーターまで多様な「関わりしろ」

―一般の都民の方々は、こうした保全地域とどのように関わることができますか。都民の方に伝えたいメッセージもお願いします。

池田さん:当センターには、保全地域再生係のほか、各種体験プログラムの実施や保全活動の情報発信をしている保全活動推進係もありまして、「里山へGO!」というウェブサイトを運営しています。初心者の方にも参加しやすい保全地域体験プログラムや、イベント情報を定期的に発信していますので、まずはそうしたイベントにお出かけいただくのがお勧めです。

中根さん:手つかずの自然がいいと思っている方も多いかもしれませんが、実は人の手が入ることによって、豊かな生態系が保たれることもあるということを多くの方に知っていただきたいですね。そうした意味でも、是非保全地域に足を運んでいただければと思います。

片塩さん:奥山の原生林などと違って、人と自然の距離が近いのは、東京ならではの特色かもしれません。多くの保全地域には案内板が設置されていますので、機会がありましたら訪れてみてください。その地域の自然の特徴や歴史を知っていただくきっかけになると思います。

池田さん:継続的に保全活動に取り組みたい方も大歓迎です。まだ特定のボランティア団体が入っていない保全地域もありますし、すでに保全活動をしている方には「保全地域サポーター制度」もあります。詳しくは「里山へGO!」でもご案内していますので、気になる方は是非チェックなさってください。たとえ一人ひとりの取組が一歩ずつだとしても、多くの方が関わってくださることで、東京の自然はもっと豊かになっていくと思います。是非私たちとご一緒いただけるとうれしいです。