脱炭素社会の鍵を握る「グリーン水素」について
「ゼロエミッション東京」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
ゼロエミッションの“エミッション”は排出という意味で、気候変動対策の観点からは、主にCO2など温室効果ガスの排出量ゼロを目指す言葉として使用されています。
東京都は、世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを追求し、2050年にCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」を実現することを宣言しています。
現在、日本をはじめとする世界中の国々で、2050年CO2排出実質ゼロという共通のゴールに向けた取組が進められています。
2050年CO2排出実質ゼロの脱炭素社会実現のために知っておきたいエネルギーの問題と、そのなかで注目される「水素エネルギー」の可能性について、紐解きます。
日本の平均気温は1.35℃の割合で上がり続けている
世界の平均気温は、工業化以前の1850年〜1900年を基準に、2011年~2020年で約1.1℃も上昇しました。気象庁によると、日本の平均気温は100年あたり1.35℃の割合で上昇しており、現在の状況が続いた場合、さらに気温が上昇することが予想されています。
気温の上昇は、気候変動を引き起こします。激しい降雨と洪水や干ばつの増加、海面の上昇、生物多様性の喪失、食料不足など、私たちの生活に影響を与えるさまざまなリスクが指摘されています。
日本が抱えるエネルギー事情
日本の人口は減少傾向にあるものの、世界を見ると、人口は増え続けています。地球では80億人を超える人々が暮らしており、人口が増えれば増えるほど、エネルギー消費量も増加する傾向にあります。
日本のエネルギー自給率は11.3%
2020年度の日本のエネルギー自給率は11.3%で、先進国の中でも極めて低い水準となっており、化石燃料のほぼ全てを海外から輸入しています。
海外にエネルギー資源を依存していることで、国際情勢などの影響により、エネルギー資源を安定的に確保できないという問題があります。
また、近年、人間活動の拡大に伴って二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、代替フロン類等の温室効果ガスが大気中に排出されることで、地球温暖化が進行していると言われています。特に二酸化炭素は、化石燃料の燃焼等によって人為的に排出されています。
世界の発電電力量をみてみると、最もシェアが大きいのが石炭や石油、天然ガスといった燃料を使い電気をつくる「火力発電」で、日本でも6〜7割を火力発電に依存しています。しかし、石炭や石油などのエネルギー資源には限りがあります。そこで太陽光、風力、地熱といった再生可能エネルギーへの早急な転換が求められています。
期待される「水素エネルギー」とは?
いま、期待をされているのが「水素エネルギー」の活用です。地球上で一番軽い気体であり、さまざまな資源に含まれている水素と酸素を結びつけることで、エネルギーを生み出します。
水素エネルギーが期待される理由は、大きく分けて3つ。
- エネルギーをつかう際に二酸化炭素を出さず、水だけを出すこと
- 地球上の様々な資源からつくることができること
- エネルギーを水素に変えて貯めることができること
水素はエネルギー問題の解決や、2050年までに東京都が目指すゼロエミッション東京の実現に向けて非常に大切な要素です。
製造時にCO₂を排出しない「グリーン水素」
そして、ゼロエミッション実現の鍵として将来的に期待されるのが「グリーン水素」の本格活用です。
「グリーン水素」は、天然ガスや工業プロセスの副産物からつくられる水素ではなく、製造時にもCO₂を出さない再生可能エネルギーを使ってつくられる水素を指します。
脱炭素社会を目指すには再生可能エネルギーの利用拡大が必要とされますが、太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、二酸化炭素を排出しない利点の反面で、季節や気候によって発電量が変わってしまうという課題があります。
一方で、水素は、長時間・大量にエネルギーを貯蔵できるという特徴があります。この両者を組み合わせることで、例えば、「電力需要の少ない春に作った太陽光発電の電気を水素に変換し貯めておき、電力需要が多い夏や冬になったら、また電気にして使う」など、需要と供給のバランスを保つことができると考えられています。このように、グリーン水素は、再生可能エネルギーの調整力としても期待されているのです。
世界に広がりつつある水素エネルギー
水素エネルギーをめぐる動向は世界にも広がっています。
世界の主要国が、水素の導入について様々な取組を加速させています。
EUでは2020年7月に再生可能エネルギーを使ってつくられる水素の大幅な利用拡大に向けた「水素エネルギー戦略」を公表し、豪州等でも豊富な再エネを活用したCO₂フリー水素の製造輸出を目指す動きがあります。 日本でも、2020年3月に福島県で、太陽光発電の電力を利用した世界最大級の水素製造施設での実証研究が開始されました。
水素エネルギー、都内でどのように活用されている?
すでに都内では、水素で動く燃料電池自動車やバスの運用が始まっています。都内では90台以上の燃料電池バスが運行されており、エネルギーとなる水素を供給する「水素ステーション」が都内に23カ所設置されています。
また、都市ガス等から水素を取り出して電気とお湯をつくる燃料電池が家庭やビルで活用されているなど、水素エネルギーは広がりつつあります。
体験しながら水素を学べる学習施設「スイソミル」
東京都環境公社が運営する水素情報館「東京スイソミル」(江東区潮見)は、目に見えない水素のことや水素社会の将来像を見て、触って、体験しながら楽しく学べる総合的な学習施設です。
「水素エネルギーの可能性」や「水素社会のしくみ」などをキャラクターと一緒に体験し、タッチパネルによるクイズで水素エネルギーについて学ぶことができます。
また、太陽光発電による水電解でグリーン水素を製造・貯蓄し、その水素から燃料電池で発電を行うシステムを公開しており、設備やリアルタイムでの発電量、水素貯蔵量等を見学できます。ぜひお越しください。
水素の基本や東京スイソミルを紹介する動画も公開しています。