関根麻里さん×江守正多さんと考える、気候変動対策のための最初の一歩。「決して他人事ではない」
「脱炭素」や「ゼロエミッション」といった言葉を耳にするようになった昨今。さまざまな気候変動対策のための取組が進められています。
気候変動は地球規模の大きな問題で、一人ひとりができることは限られていると思ってしまう人もいるかもしれません。しかし、本当にそうなのでしょうか?
気候変動をめぐる現状と、一人ひとりができる「最初の一歩」について、タレントの関根麻里さんと、気候科学者で東京大学未来ビジョン研究センター教授の江守正多さんが対談しました。
「異常気象で気候の変化をすごく感じています」 気候変動の現状は?
―「気候変動」というテーマを聞いたとき、まずどんなことが思い浮かびますか?
関根:私はインターナショナルスクールに通っていたのですが、「地球温暖化(global warming)」や「気候変動(climate change)」といった単語は、小学生の頃から聞き続けている言葉でした。ドキュメンタリーも学校で見ることがあったので、すごく関心を持っていました。
江守:そうだったんですね。それはいつ頃でしょうか?
関根:1990年代の頃でした。海面の水温が上がってしまうことで氷がどんどん溶けてしまい、海に沈んでしまう島が出てきてしまう……などの地球規模の話を知って、それは大変なことだと漠然と思っていました。
ただ、この問題を身近に感じたという意味では、最近、異常気象というか、雨の降り方や夏の暑さが昔とは変わっている気がして、気候の変化をすごく感じています。実際にどうなっているのか、一人ひとりがどうやってこの問題に取り組んでいけるのかということはしっかり情報収集できていないので、知らないといけないと思っています。
約1.1℃上がった世界の平均気温
江守:1990年代は、まさしく世界で気候変動の議論が広がっていった時代でした。
気候変動をざっくりと解説すると、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスが増えすぎることで地球が温暖化し、それによって気温や気象が変わってしまうことを指します。
温室効果ガスは、地球から宇宙に逃げようとする熱を吸収して、地球を温める役割がありますが、増えすぎると地表の温度が上昇してしまう。産業革命以降に人間が化石燃料を燃やすようになると、温室効果ガスの排出量がどんどん増えていき、気温の上昇が進みました。
産業革命前と比べて、世界平均気温は約1.1℃上がったといわれています。1℃というと、あまり大した数字には聞こえないですよね。
関根:そうですよね。朝晩の気温差はもっとありますし…。
江守:ところが、世界全体で平均して1℃上がるというのはすごいことなんです。たとえば、2万年くらい前の氷河期の時代、地球はすごく寒くて氷に覆われていて海面が低かった。その時代と、今を比べてみると、世界の平均気温はたった5〜6℃低いだけなんです。それだけで、海面水位も120メートルくらい低い。
これを基準に考えると、1.1℃の上昇がどれほどのものなのかよくわかると思います。たった100〜200年ぐらいの間でそれほど気温が上がってしまったのです。
そして、今も温室効果ガスはどんどん排出されていて、減らしていきましょうとは言っていますが、なかなか減っていない。このまま放っておくとこれからも確実に温度が上昇し続けていくということは、科学的にも指摘されています。
記録的な暑さで熱中症のような直接的な被害も出ています。気候が変わって大雨が増え、海面が上昇するなかで台風がくると、高潮が発生しやすくなります。世界に目を向けてみると、森林火災や干ばつなども起きている。
関根:今までは考えられなかったようなことが起きていますよね。
子どもの頃、森を守ろうというプロジェクトに参加したことがあります。その時は、森林が伐採されることによって二酸化炭素が吸収されなくなり、温暖化に繋がってしまうという話を聞いていたのですが、やっぱりどこか遠い土地の話という気がしていたんですよね。
でも、今はもう遠い場所の話ではないと感じます。身近な災害にも繋がっているし、そしてそれが今までの積み重ねの結果だと考えると、決して他人事ではないと思います。
気候変動の問題を「自分ごと」にするために
―気候変動の対策として、具体的に日本や世界はどんな目標を掲げているのでしょうか?
江守:2015年に採択されたパリ協定で、産業革命前と比較して世界の平均気温の上昇を「2℃を十分下回る水準で維持する」こと、さらに「1.5℃に抑えるようにする」という目標が決められました。
そのためには、世界で排出している温室効果ガスを実質ゼロまで減らさなくてはいけない。早ければ早いほど低い温度で止められるため、日本では2050年までに「カーボンニュートラル(=温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること)」を実現することを目指しています。
世界全体で総論としてこの協定に合意している一方で、エネルギー需要がこれから増える発展途上国では対策が追いつかないなど、それぞれの国ごとに複雑な事情がある。そのなかでゼロを目指すというのが世界の現状です。
―一方で、地球温暖化はそれこそ大きな問題だと捉えられがちで、一人ひとりが「自分ごと」にするのはすごく難しいようにも感じています。
関根:日本でもSDGsという言葉が広がって、気候変動は17の目標の一つではありますが、身近な問題になってきていますよね。クリーンエネルギーや水素の活用という言葉もよく耳にするようになって。
ただ、海外に目を向けてみると、もちろん人によると思うんですが、環境問題への意識が高い人は、すごく自分の意思や立場の発信をしている印象があります。たとえばアメリカだと、セレブたちが旅客機ではなくプライベートジェット機を利用すると、環境に負荷をかける行為だと批判されることがあります(※)。セレブが声明を出すこともあって、最近のホットトピックの一つなんですが、あまり日本では見ない光景ですよね。常にそうしたことが話題に上がっていて、議論されていると感じます。
航空機は鉄道などの交通機関と比べて二酸化炭素の排出量が多く、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の報告によると、1992年の全体の二酸化炭素排出量のうち、2%が航空機によるものだという。
日本では、気候変動も「受け入れてしまう」?
江守:内閣府による最近の世論調査では、8割から9割以上の人が気候変動の問題に関心があると答えているんです。
関根:そんなに多いんですね。
江守:やっぱり暑さは関係していると思います。ただ関根さんが言うように、関心は高まっているのですが、欧米のように活発な議論や主張が生まれていないように感じています。
人間活動によって猛暑になっているとはっきり認識している人はそこまで多くなく、「暑くて困っている」という範囲にとどまっている印象があります。2023年は観測史上最高の暑さで、私がインタビュー取材を受けると「今年のような暑さは一時的なものなのか」とよく質問されました。「ここまでの暑さはたしかに変動の上振れかもしれないが、長期的にはさらにもっと暑くなっていきます」と答えると、すごく驚かれたんですよね。
気候変動はとても大きな問題で、自分が心配したところでどうにかなりそうな気がしない、という人も多いのではないかと思います。ほかに考えなくちゃいけないことがたくさんあって、強く関心を持ちづらい。そういった性質のある問題なのではないかと感じています。
関根:江守さんの話を聞いて、国民性も関係あるんじゃないか、と思いました。日本は四季の変化がありますし、何か変化があったらそれに合わせて対応するという、「対応力」が高いんじゃないかと感じています。あまり変化がない国だと、変化が起きた時に敏感に感じやすいと思うのですが、そうではないのかなと。
だから気候変動の問題も、どこか「適応しなくてはいけないもの」だと受け入れてしまうんじゃないか、と感じました。
江守:関根さんのおっしゃる通りで、それはよく指摘されることなんです。もともと災害も多い国ですし、多少激甚化しても受け入れてしまう。そして、東洋的な自然観が影響しているかと思うんですが、人間がその状況を変えられるとも思いづらい。災害が増えたらそれに応じて生きていくしかないんじゃないかと思ってしまう傾向があるかもしれません。
関根:でも、実は気候変動が人の活動によって起きているのだから、人の力で止めることもできるということなんですよね。それがちゃんと伝わらないといけないですよね。
被害を大きく受けるのは、天候や自然に頼った生活を営む途上国の人々や若い世代
―もしもこのまま何もしないで自然の成り行きに任せていたら、日本を含めて地球はどうなってしまうのでしょうか?
江守:最新の報告書では、まったく気候対策をせず化石燃料に依存したままだと、今世紀末に世界平均気温が4℃近く上昇すると指摘されています(※)。
IPCCが2021年〜2023年に公表した「第6次評価報告書」では、化石燃料依存が続き、気候政策を導入しなかった場合、2081~2100年に世界気温が4.4°C上昇すると予測されている。
関根:氷河期の世界気温の話をふまえると、途轍もないことに感じます。そうすると、もう人は住めなくなってしまいますよね。
江守:熱帯はもちろん、乾燥地域も干ばつが起きて水や食料がなくなってしまう。海面上昇や高潮で住めなくなる人たちも出てくるでしょう。世界全体で見ると命を落とす人もたくさん出てくるし、難民も増えます。そうなると、各国が限られた水や食料を奪い合うサバイバルゲームのような世界になってしまうかもしれません。
そして、難民になってしまうような深刻な被害を受ける人たちは、天候や自然に頼った生活を営む途上国の人たちです。温室効果ガスを少ししか出していなくて、気候変動の原因にほとんど責任がありません。
あとは将来世代です。あとから生まれる人ほど温暖化の悪影響を受けますが、その原因は前の世代がつくっている。それが理由で、世界で若い世代の人たちが発信をしています。一方で、内閣府の世論調査では、日本では若い世代ほど気候変動の問題に関心が低いことがわかっています(※)。
内閣府が2023年11月に公表した「気候変動に関する世論調査」によると、18〜29歳のうち気候変動の問題に「あまり関心がない」と答えたのは19%、「まったく関心がない」と答えたのは9.5%で、全年代のなかで最も高かった。
早ければ早いほど伝わりやすい。子どもたちへの伝え方
―こうした現状があるなかで、みんなが気候変動の問題を「自分ごと」にして取り組んでいくためには何が必要だと思いますか?
関根:これまでのお話を聞いて、私自身すごく驚く話ばかりなんですが、やっぱりまず「知る」ということが大事だと思います。地球温暖化というフレーズはよく聞くけれども、詳しくは知らないという状況なのかもしれません。
―子どもたちに伝えていくことも大切ですよね。自治体や企業で、環境問題について知るイベントや見学会もよく開かれています。
関根:環境関連の施設を見学できることは知らなかったので、すごく行ってみたいと思いました。子どもの時に教わったことや見聞きしたことってすごく素直に入ってきますし、印象に残るものだと思うんです。もちろんわかりやすく伝える必要はありますし、やりかたも難しいとは思うんですが、きっと早ければ早いほど伝わりやすいですね。
学校の教育で機会が増えていくことも大切だと思いますが、テレビ番組や映画、アニメといったエンターテインメントを通して問題を知る機会が増えるといいですよね。そうするとぐっと伝わりやすくなると思いますし、みんなが当たり前に環境の問題について会話ができるようになるんじゃないかと思います。
それこそ、SNSのインフルエンサーの人たちが発信したら変わるかもしれません。危機感を伝えることも大切ですが、どうしたらいいのかという具体案やいろんな選択肢をポジティブに与えていくことも同時に大事なんじゃないかと思いました。気候変動対策のために何かすることはクールなんだよ、という機運が高まっていくといいですよね。
一人ひとりができることとは?
―関根さんや江守さんは、気候変動や環境のために普段意識されていることはありますか?
関根:小さなことですが、エネルギーや資源を使いすぎないように、省エネや節水を意識しています。あとは何か買い物をするとき、フェアトレードの認証ラベルを見たり、環境問題に取り組んでいる企業の商品を選んだりもしています。そういった企業の方が魅力を感じますよね。そうした小さな行動の積み重ねが、対策に繋がっていくのではないかと思っています。
江守:ごみの分別をするなどの意識も大切ですし、私は再生可能エネルギーを提供している電力会社を選んでいます。電力自由化で、個人でも実質的に再エネ100%で発電された電気を契約できるようになったんです。あとは電力を抑えるために家の断熱にこだわったり、牛肉をあまり食べなくなりました。牛のゲップには、温室効果ガスであるメタンが含まれていて、温暖化への影響が指摘されているんです。
関根:再エネの電力を選べるようになったのは知りませんでした。すごく良いことですね。断熱といえば、家の壁面でゴーヤを育てる「グリーンカーテン」をやったことがあります。日の光の入り方が違うので、室内の温度がやっぱり違いましたね。冷房を使う頻度も減りましたし、ゴーヤも食べ放題だったんですが、あまりにも成長しすぎてしまったので友だちに配って(笑)。すごく楽しかったです。暑さ対策にもなって快適でしたし、電気代の節約にもなりました。
江守:日本の気候変動対策で、断熱は大事なテーマの一つなんですよね。
―省エネや節水というと「我慢」というイメージもあると思うのですが、断熱に取り組むと、くらしが快適になるんですね。
関根:そうですよね。気候変動対策をすることで、自分のくらしが快適になることもある。そういったポジティブな影響もあるということがもっと広がると良いですよね。以前テレビ番組に出演したとき、窓を断熱窓に切り替えると自治体から補助金が出るということを学びました(※)。
江守:そうなんです、リフォームでできるんですよね。
関根:断熱窓を実験で触ってみたんですが、本当に全然違いました。
東京都では、高断熱窓・ドア等への改修に対して補助を行う「災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業」を行っています。東京都地球温暖化防止活動推進センター(クール・ネット東京)
自分の意見を持つために知ること、市民として参加すること
江守:あと、省エネなど自分の生活でできることを実践するのもよいのですが、私がすごく大切だと思っていることは、「仕組みを変える」ことに参加する、ということなんです。
2022年に、2025年度以降に新築される建物すべてに省エネ基準の適合を義務づける法律が可決されたんですが、その背景の一つに市民の後押しがありました。
やっぱり脱炭素化に向けて社会が変わるためにはルールの変更も必要で、そこに市民一人ひとりが参加すると大きな力になる。気候変動対策を進めるルールができそうなときにまわりの人と話をしたり、何か発信したりしても良いと思います。行政が政策や制度を進めるとき、市民が意見や情報を提出できる「パブリックコメント」という仕組みもあります。
関根:それはとても大切なことですよね。より認知が広がるし、対策もスピードアップして実践されていくと思います。
―今日はお二人に素敵なお話をたくさん聞かせていただきました。今日の対談や江守さんのお話をふまえて、関根さんは気候変動という問題に対してどういったことをやっていきたいと思ったか、改めて聞かせてください。
関根:自分の生活の中からできることを見つめ直して、一つひとつのことをやっていきたいと思います。声を上げることの大切さを感じましたし、自分の意見を持つためにさまざまな情報に触れたり体験したりして、知るということもすごく大事だと思います。
東京都環境公社では、イベント・見学会などを行っています。
明日をつくる、新たな一歩「TOKYO-ecosteps」
https://www.tokyo-ecosteps.jp/
水素情報館 東京スイソミル
https://www.tokyo-suisomiru.jp/
環境関連施設(埋立処分場)見学
https://www.tokyokankyo.jp/learn/chubo-tour/
東京の自然にタッチ 里山へGO!
https://www.tokyo-satoyama.metro.tokyo.lg.jp/
- 関根麻里
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1984年10⽉22⽇生まれ。⽗は関根勤。インターナショナルスクールを経て、アメリカのエマーソン⼤学に進学。首席で卒業した後、⽇本に戻り芸能界デビュー。 テレビやラジオ、ナレーション、CM等で活躍している女性タレント。得意の英語を生かし、絵本翻訳や、海外のアーティスト・俳優へのインタビューも数多く行っている。 2014年に結婚し、現在は2児の母。
- 江守正多
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1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学 大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得。国立環境研究所 気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域副領域長等を経て、2022年より東京大学 未来ビジョン研究センター 教授。同大学院 総合文化研究科にて学生指導も行う。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。