「いつも同じ服でも、かっこいい」。鎌田安里紗さんが伝えたい、環境のために一人ひとりができること

モデルやアパレル販売員の経験をきっかけに、ファッション産業のあり方に興味を持ったという鎌田安里紗さん。衣服の生産から廃棄の過程で生じる自然環境と社会への影響に目を向け、課題や疑問を発信し続けています。

週にだいたい3日以上は同じ服を着ているという鎌田さんは、「いつも同じ服でもかっこいい! ということを伝えたいです」と話します。

その理由はなぜなのでしょうか? 問題意識が芽生えたきっかけや、産業が抱えている課題、環境のためにご自身が実践されている生活の工夫について教えてくれました。

きっかけは、服の大量生産と低価格化に感じた違和感

2008年、高校1年生の時に渋谷のお店でアパレル販売員を始めました。当時はファストファッションのお店が増えてきて、安くトレンドの服が買えるようになる転換期だったと思います。

私が働き始めた頃は、特定のファッションブランドに憧れ、アルバイト代やお小遣いを貯めて買いに行くという感覚が強かったと思います。それが、2010年代にかけて、「コストパフォーマンスをもとに意思決定をするのが賢い消費者だ」という価値観に変わっていきました。

例えば私が働いていたお店では、こんな光景をよく目にしました。お客さまが「これかわいい」と商品を手に取る。すると一緒にいたお友達が「さっきのところはもっと安く売ってたじゃん」と言って、お客さまは「確かに」と言って棚に戻す。似たデザインなら、当たり前に安い方がいいよね、って。そんな場面が印象に残っています。

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コストパフォーマンスを高めたファストファッションと呼ばれるビジネスモデルのブランドは、何万枚という単位で大量に服を作ります。その分、服の単価は下がる。小さなお店は、価格では太刀打ちできません。

そこで広がったのが、海外での「買い付け販売」でした。広大なスペースにずらっと服が並んでいる場所に行き、売れそうなものを選び、50枚ぐらい注文して、ブランドのタグをつけて売るんです。私が働いていたお店は元々は全てオリジナルアイテムでしたが、価格の都合上、買い付けが増えていきました。高校生ながらに「これで良いのだろうか」とだんだん疑問が湧いてきました。

当時通っていた高校の授業でフェアトレードについて学んだこともあり、「じゃあ服はどうなっているんだろう?」と思い、ファッション業界の課題を調べるようになりました。自分が店頭で感じていた違和感と、消費者として感じていた違和感、さらに調べて得た情報が結びついていったんです。

買い付け販売や低価格の服に疑問が湧いた頃、自分は服を売って、雑誌でモデルとして宣伝もしているけど、この服がどうやって作られているか知らないと思いました。

そんな中、知り合いのツテをたどり、工場に行って、本当に感動したんです。「糸を紡ぐだけでも、こんなにも技術と過程があるんだ」と。服ができるプロセスがすごく面白くて、工場に行ってからは、ものづくりの背景を知った上で服を着る喜びに気付きました。

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一方で、ものづくりの過程で労働者がリスペクトされていないことや、環境負荷の課題も知りました。ファッションが好きである以上、そういった課題も広めていくべきだと考え、メディアに企画を提案したものの、「需要がない」と言われてしまいました。

ブログで発信を始めたのは2009年ごろのことです。すると、「私も工場に行ってみたい」というコメントをもらうようになって。作り手にとっても、自分が縫った服を着ている人と話す機会はなかなかありません。双方向のコミュニケーションができるのはいいなと思い、服の生産地を巡るスタディー・ツアーを企画しました。

「服」をめぐる、さまざまな問題。約15年間で衣類の生産量は2倍に。問題は連鎖的に生まれ続ける

2000年から2014年の間に、世界の衣類生産量が約2倍になったといわれています。人口と生産量の増加率を比べると、2000年くらいから衣類の生産量が増えるスピードが人口増加のスピードを超えています。たくさん作ることは1枚あたりの単価を下げることにつながるので、大量生産と価格低下の流れは連動しています。

たった1着を作るのに、大量のCO₂を排出し、水を使う。例えば、コットンは天然素材で優しい、といったイメージがありますが、棉を育てる時に必要な農薬や化学肥料の製造にはたくさんのエネルギーが使われている場合もあります。また、それが周辺の地下水に流れ込むなど、影響は連鎖します。

<出典:環境省「サステナブルファッション」より https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/>

生産の過程で大きな環境負荷がかかるのに、服は驚くほど安く買えます。そして、安くて買いやすいがゆえに、捨てやすい。そのため、服の所有期間が短くなっているというデータもあります。

そして、手放された服はリサイクルされるものが少なく、約6割が焼却処分をされています。

海外に古着として輸出される服は、もちろん一部は古着として市場に出回りますが、質が良くないものも多く、ごみになってしまうこともあります。大量のごみは処理しきれず、いずれ海外の埋立地がいっぱいになるーーといった課題が浮かびます。

さらに、石油由来の化学繊維は高温の地域で日に照らされると自然発火し、そのガスは健康被害を引き起こしてしまう。

生産過程だけではなく、廃棄の過程まで人や環境に負荷がかかります。

<出典:環境省「サステナブルファッション」より https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/>

必要なのは、世の中みんなが関わり合いながら変化していくこと

海外では画期的な政策が実装され始めています。フランスでは、服のお直しに一時的に補助金が出るんです。私は自分の服をよくお直しするのですが、一度でもお直しをすると服に愛着が湧いて、新品を買うのとは全く違う体験ができます。

ただ、お直しは技術もいることですのでお願いすると数千円はかかります。安く新しい服を購入することと比べると、ハードルがどうしても高くなってしまうので、国がそれを手助けしてくれるのはとてもいいことだと思います。

企業、行政の取組も大切ですが、同時に「生活者の意識」も重要です。サステナブルファッションのオンライン講座を無料で提供したり、ファッションブランドのエシカル度をチェックできるサイトをオープンしたり、服を買うとき、手放すときのことに目を向けてもらうことを目的とした活動を行っています。

本当にほしい服かどうか?環境のために一人ひとりができること

消費者一人ひとりができる取組として、「3つのR」という言葉があります。

優先度が高い順に「リデュース(減らす)、リユース(繰り返し使う)、リサイクル(再利用)」を意味していますが、リサイクルが最後なのは、リサイクルの際にエネルギーが必要になるからです。だから、リサイクルすれば環境にプラスの影響があるわけではない。どんどん買ってどんどんリサイクルではなく、その手前にある「リデュース」と「リユース」を意識してほしいと思っています。

ちょっとした工夫で変えることはできます。

時には衝動買い、お得感で買うなどお買い物をして気持ちを明るくすることは、必要かもしれない。でも、常にする必要はないはずです。

もしお店で服を手に取って、値札に「40% OFF」と書いてあったら、それだけで得をした気分になって買いたくなってしまうかもしれない。でも、私はもし気に入った服があったら、値札を見ずに、まずいくらだったら買うかを一度考えます。そして、最後に値札を見る。価格の先入観を受けずに、しっかりと見極める、これも「リデュース」を意識することにつながります。

また、世間にはずっと同じ服を着ているとみっともない、みたいな感覚がある気がします。
雑誌でモデルをしていた時も、たくさんの服を使った着回しコーディネートの企画がとても多かったです。でも、今は「いつも同じ服でもかっこいい!」ということを伝えたいです。

私も、ファッションの楽しみ方は「コーディネート」だと思っていました。だからたくさんの服がほしくて、安い服を買っていた。でもある日、自分の部屋に帰って狭い部屋の一角を占めているシワシワの服に目を向けたとき、ひとつも愛着を持てていないことに気づきました。

安くて使えそうと思って買ったとしても、何回か着るとすぐ飽きてしまう。服が増えて一瞬はうれしい気持ちになったとしても、結局長く着ることができず、いいことがないと思いました。

もちろん、コーディネートを楽しむことはすごく素敵なことだと思います。サステナビリティの意識が高くて、いっぱい服を持っていて、コーディネートを楽しんでいる友人もいます。人それぞれの選択と楽しみ方があると思いますが、「同じ服を着ることが恥ずかしい」から服をたくさん揃えないといけないという考えがあるとしたら、それはなくなってほしいなと思います。

私は週3日以上、同じ服を着ています。それが快適だということに気が付いたんです。いつも違う服を着るのは自分が本当に求めていたことではなく、そうしなければいけない、と思っていただけだった。

一度着た服には、何となく自分とのつながりがあるように感じます。服をごみ箱に入れると、服を着て出かけた思い出などがよみがえり、自分の心が痛みます。一方で、直すという行為は気持ちとしてもいい。ケアするのは楽しいということも、伝えたいですね。そういった一見地味な行動に、インパクトがあると考えています。

鎌田安里紗(かまだありさ)
一般社団法人unisteps共同代表理事

1992年、徳島県生まれ。高校進学と同時に上京し、在学中に雑誌でモデルデビュー。
「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人「unisteps」の共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から棉を育てて服をつくる「服のたね」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。