
生物多様性
都内では都市的土地利用の拡大のなか、残された緑地や水辺には貴重な生物・生態系が現存しています。
河川や水田地帯、保全地域、都市公園等をフィールドとして、保全上重要な生物の分布や生息環境の把握、生物間相互作用の解明等を実施し、都内の生物多様性保全やネイチャーポジティブ(生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せること)に貢献する研究を実施しています。
主要研究課題
1.保護上重要な野生生物種の保全に向けた研究
都内では都市化の進行や人間活動による緑地や水辺の変化によって生物が減少してきました。さらに、人為的移殖等によって外来種・系統が侵入した結果、在来種・系統を減少させるだけでなく、在来種・系統との間で交雑を引き起こしている場合があります。
一方で、現存する緑地や水辺においては絶滅の恐れのある種・系統が現在も生息しています。
生物多様性研究チームでは、都内において絶滅の恐れのある生物であるスナゴカマツカやドジョウ類の在来種・系統等の保全に役立つ知見を得るために、従来の生物・環境調査手法に加えて、環境DNA(河川水などの環境中に存在する生物由来のDNA)等を活用して以下の研究に取り組んでいます。
1)保全上重要な野生生物種の分布状況とそれに影響を及ぼす環境条件の把握
2)在来種・系統と外来種・系統との間に起きている遺伝的交雑の実態把握
3)在来種・系統と外来種・系統のDNA判別手法の開発


落差工の高さ測定の様子

これらのような東京都レッドデータブック掲載種を主な対象としています。
2.都市緑地における花粉媒介サービスの解明
現在、ネイチャーポジティブの実現に向けた動きが世界的に加速している中で、都市緑地における生物多様性保全や生態系サービス機能(生物・生態系に由来し、人類の利益になる機能)への注目が集まっています。
一方で、都市緑地の保全や創出が生物多様性や生態系サービスにもたらす効果についての科学的知見の蓄積や評価手法の開発はまだ不十分です。その中で、都市緑地における花粉媒介サービスは、送粉者や在来植物の保全、緑地植栽計画、外来動植物種対策に至る広範な知見をもたらす重要な生態系サービスの一つであり、都市緑地の健全性を測る指標になると期待されています。
そのため、生物多様性研究チームでは都市緑地の質向上に向けて、昆虫の体表付着花粉や花・葉に残留する昆虫由来の環境DNAに基づいた生物相モニタリング、生物間相互作用の解明により、都市緑地機能を把握・評価するための研究に取り組んでいます。
また、第三世代シーケンサーであるナノポアシーケンサーを用いた環境DNA分析に関する技術的な開発にも取り組んでいます。

