東京都環境科学研究所

水素蓄電を活用したまちづくりに向けた調査(2019-2020年度)

令和2年度外部研究評価委員会 継続研究の中間・事前評価結果

研究テーマ
水素蓄電を活用したまちづくりに向けた調査
研究期間 2016年度~2020年度
研究目的 遠隔地の再生可能エネルギー由来のCO2フリー水素の利活用や、水素エネルギーマネジメント構築に向けた課題を整理し、解決策を示すことで、まちづくりにおけるCO2フリー水素の活用を目指す。
研究内容
  • (1)都内での再生可能エネルギー由来のCO2フリー水素の拡大に向けた調査
  • (2)島しょにおける環境負荷低減や防災力強化等の効果が期待される再生エネルギーの地産地消に資する水素蓄電エネルギーマネジメントシステムの実現可能性を検証
2019中間評価 A 3名、B 3名
評価コメント及び対応
  • 再エネ由来水素貯蔵・発電システムの島しょへの導入ポテンシャルを調査推定するとともに、島しょへの導入効果を4区分のシミュレーションで予測し、妥当かつ興味深い推定結果が得られていると判断できる。
  • 水素蓄電実験システムを設置、実際に運転して得られたデータが、文献に基づくシミュレーション結果と大きな違いがないことが確認されたことにより、本装置の信頼性が確保されたことは評価できる。また、系統電力を最小化する最適化運転を行うための逐次制御手法を確立した。
  • 島しょにおける水素蓄電エネルギーマネジメントの導入の可能性に関し、東京都の島しょの特徴を踏まえたモデルを作成し、再生エネルギー比率を指標にしてシミュレーションし、それぞれの電源比率の特徴を明らかにしたことは評価できる。
  • 再エネと水素エネルギーを組み合わせた、総合的なゼロエミッションの取り組みは重要であると思う。
  • 実際の建物への導入を想定した実験システムを構築できたことの評価は高いものと考えられる。また、島しょへの導入に当たり、電力需要に応じた分類を行い、それぞれでコストも含めた検討がなされている点は大変興味深い成果であると考えられる。
  • 平成28年度からの研究成果を基にして、水素蓄電実験システムを新たに設置し、研究所を対象としたシミュレーションの実施まで実証試験を進めた点を評価する。また、各島しょの状況を解析し、4つに区分して詳細なシュミレーションを実施しており、より実用的な検討が行われており、今後の研究に期待する。
  • 最適化計算と逐次シミュレーションにより制御手法の検討が詳細に実施されていると思われる。計画に基づいて着実な成果が得られており、今後の進展が期待される。
  • 実験システムの導入が年度末になったため、今年度のシミュレーションはこれまでと同様に定格特性ベースでの比較、評価になっているようであれば、逐次シミュレーションを実施された意義が小さいように感じられる。また、エネルギーセキュリティ的観点としての評価は、水素貯蔵の長所だけでなく短所も考慮した上で、現実的な比較の議論をお願いできればと思う。
  • 測定値を使用した逐次シミュレーションは2019年度には実施できませんでした。2020年度に実施する実験システムを用いたエネマネ実験においては、実機の特性を踏まえた上で、各装置の制御値に逐次シミュレーションの値を使用する予定です。エネルギーセキュリティ的観点での評価については、ご指摘を踏まえ、災害等のケース想定を行いながら、水素貯蔵の短所も考慮して比較を行うようにします。
  • 島しょにおける水素蓄電エネルギーマネジメントの導入に対する経済的観点からの考察において、現行の系統電気料金の2.5倍あるいは5倍の料金を想定して経済的メリットの出る条件を計算することに意味があるのか。ZEI(100%再生エネルギー)が最終目標であるならば、住民が受け入れるメリットを模索する必要があるのではないか。
  • 本土の電気料金に比べ、島しょは燃料輸送費が余計にかかる分、原価が高く、kWhあたり50~100円になるとのNEDO調査報告から、水素蓄電を増やした場合の電気料金についてメリットが有るかどうかを確認するために算出しました。一方、住民の電気料金の負担が変わらない中で、非常時における電源確保など住民が受け入れ易いメリットを整理して行きたいと考えます。
  • 島嶼部における本研究の目的としてのZEIであれば、日本におけるGHG発生量のうち何%削減できるかを費用対効果も含めて考察すべきと思う。一方でエネルギーセキュリティーであれば再エネ(太陽光発電)だけではなく水素を入れる必然性が必要と思う。(再エネだけではダメな理由が良くわからなかった)。都に導入する際のパイロットプラント的な話であれば、ある程度の人口規模のある大規模島のみでも良いと思った。
  • 環境局では、電力会社と共同して小笠原村母島において1年のうちの半年程度を太陽光発電と蓄電池で電力を賄うことを目標とする実証事業を行うこととしています(2022年度末からの予定)。このような状況の中、局の意向を受けて、島しょにおける再エネ導入率をさらに高める手法の一つとして、水素蓄電の導入を検討するため、開発した水素蓄電エネマネシミュレータを用いた評価を行うこととしました。島しょのZEI化は、人口規模等から考えても国内GHG発生量に対する削減効果は期待できません。一方で、島しょでのエネルギーの自給は、検討のモデルとして組み立てやすく、先導的な取組の可能性を秘めているものと考えられます。パイロットプラントについては、貴重なご意見として受け賜わります。
  • 水素を活用しない一般的な蓄電池による蓄電に対する優位性について、もう少しアピールできるような成果を発信してもらいたい。(占有面積、コスト、エネルギー効率など、多様な側面からの評価があると望ましい)
  • 蓄電池だけの場合と水素蓄電を加えた場合の経済的な得失やエネルギー効率の比較については2018年度に実施しました。しかし、占有面積等の多様な側面からの評価は不十分でしたので、今後、実施していきます。
  • 島しょにおける再エネ由来水素蓄電システムは台風等の災害に関しては現存の発電システムと比べてどのようなものか。
  • 再エネ+蓄電池+水素蓄電においても、台風などで天気の悪い日が続いてPV発電量が少なくなると水素製造量も少なくなり、貯蔵量が減少する可能性があります。BCPにおける技術的・経済的な評価や現存システムとの比較については、災害によるケース設定を行った上で、実施して行きたいと考えています。
  • 費用対効果(単位CO2排出量低減に要する費用)や初期投資費用が回収できる年数(様々な仮定が必要かと思われるが)などの観点からの議論は可能か。
  • 平成30年度に実施した都有施設等への水素蓄電の導入シミュレーションでは、公表されている電力のCO2原単位と設備価格等(耐用年数考慮)を用いて、CO2排出低減の費用対効果を算出しています。島しょについては、ディーゼル発電によるCO2原単位や島しょエリアでの工事コストの増嵩を考慮した上で、費用対効果の比較をしたいと考えています。
    現状では系統電力の電気料金が最も安いため、水素蓄電は導入するほど電気料金は高くなり、初期投資費用は回収できません。系統よりも水素蓄電の方が安くなると見込まれる2030年以降の電気料金であれば、初期投資費用の回収年数の算出が可能です。
2020事前評価 A 1名、B 5名
評価コメント及び対応
  • 都有施設と島しょ用への導入を目指し、種々の試行実験・検討を意欲的に計画されている。
  • 水素蓄電実験システムについて、季節を通した実証実験を実施することは意義がある。各設備の環境温度が設備・機器の耐久年数に影響すると思われるので、LCC評価につながるデータ取得にも期待したい。
  • 都市部における取り組みは重要だと思う。
  • 実験システムで、年間を通したデータが収集できることは大変意義がある。シミュレーションの精度向上に向けた様々な条件でのデータの充実が期待できる。島しょにおけるコストなどの問題点を考慮した最適モデル・システムの構築は、導入に向けた重要な課題であると考えられる。
  • 具体的な研究計画が示されており、都有施設への水素蓄電エネマネの導入や島しょでの導入モデルの具体的な提案にまでまとめることを期待したい。
  • 研究計画は妥当であると思われるが、実証実験のより具体的な計画を提示していただきたい。
  • 実験システムを種々の条件で設定変更される計画のようだが、せっかく構築された実機を最大限に活かして、過渡応答特性も考慮したシミュレータの高度化に絞り込んで取り組まれても意義深いのではと思われる。
  • 1年間程度の期間で最適化するように実験システムの制御方法を確立する予定です。その際、過渡的な速い現象における需給の不整合は系統で調整する予定ですが、実験システムの制御に影響を与えるような現象が現れた場合には、シミュレーションの高度化に反映していきたいと考えます。
  • 水素蓄電エネルギーマネジメントの導入効果が期待できる都有施設についての検討とあるが、本システムでは太陽光パネルの設置面積が確保できるかどうかが必要条件となるのではないか。
  • 太陽光パネルの設置面積の確保は、都有施設への水素蓄電エネマネ導入の必要条件となります。導入効果が期待できる施設の検討に当たっては、太陽光パネルの設置可能面積を重要な要素として考慮します。
  • 実験システムでの実験では、省エネ化率など実験で想定する条件をできるだけ多く設定してもらいたい。
  • これまでに設定した再エネ比率や装置の電力比率のほか、今後の省エネ化率や他に考慮できる実験条件をなるべく多く設定したいと考えます。
  • 非常時(災害時)における独立電源としての活用などの可能性についても併せて検討し、本提案システムの総合的な評価を進めてもらいたい。
  • BCPや独立電源としての評価は今後の研究課題に含めるように検討します。
  • 水素蓄電エネマネシミュレータプログラムの公開は予定しているのか。
  • 水素蓄電エネマネシミュレータはwebアプリとして2021年度から公社ホームページで公開する予定です。
  • 島しょ以外の都有施設に展開することを想定したシミュレーションも進めてもらいたい。
  • 平成30年度は、様々な都有施設(13所)を対象としたシミュレーションを実施しておりますが、今後は、可能性のある施設での検討を深めていきます。
  • 島しょにおける研究の位置づけを明確にしてくれればと思う。
  • 島しょにおける研究については、都施策におけるZEIの位置付けとの整合を図りながら、明確にしていきたいと考えます。
  • 島しょという地域的特性を活かした発電システムの実現が期待される。
  • 島しょの地域的特性を活かせるよう、水素蓄電システムの構成や設置方法だけでなく、運用方法についても検討したいと考えます。