東京都環境科学研究所

水素蓄電を活用したまちづくりに向けた調査(2016-2020年度)

令和3年度外部研究評価委員会 終了研究の事後評価結果

研究テーマ
水素蓄電を活用したまちづくりに向けた調査
研究期間 2016年度~2020年度
研究目的 遠隔地の再生可能エネルギー由来のCO2フリー水素の利活用や、水素エネルギーマネジメント構築に向けた課題を整理し、解決策を示すことで、まちづくりにおけるCO2フリー水素の活用を目指す。
研究内容
  • (1)都内での再掲可能エネルギー由来のCO2フリー水素の拡大に向けた調査
  • (2)島しょにおける環境負荷低減や防災力強化等の効果が期待される再生エネルギーの地産地消に資する水素蓄電エネルギーマネジメントシステムの実現可能性を検証
2021事後評価 A 4名、B 2名
評価コメント及び対応
  • 都有施設等における実証研究では、前年度導入した実験システムを改良し、特徴の異なる4つの都有施設等を対象に、水素蓄電エネマネの導入について検討を行い、設置スペースや導入コストを踏まえて導入適性を明らかにしたことは評価される。島しょ部において、太陽光発電に比べて設置スペースの制限が少ない洋上風力発電についても適用を検討した結果、太陽光、洋上風力双方の発電を併用した検討が必要であることがわかったことは意義がある。
  • 気象庁のデータによると伊豆諸島・小笠原諸島への台風の接近数の平年値は、関東地方・甲信地方の1.6倍程度であり、洋上風力発電については厳しい条件になるのではないかと懸念される。
  • 風車の設置に当たっては、台風等の自然災害に対応できるように強度審査に適合させる必要があります。小笠原村や八丈町等では、建築基準法施行令に基づく基準風速が42mであり、強度審査を通すことが難しいとも言われています。また、強度上の課題をクリアしても、ご指摘のような台風時の強風に際しては発電を停止させる必要もあります。検討対象とした島では、発電出力が長期間得られない場面も確認されましたが、設備稼働時間は太陽光発電よりも多く得られ、設備利用率は太陽光発電と比較して大差がないことが分かりました。一方、条件が良い時は昼夜を通して電力が得られるメリットを踏まえ、建設の可能性が考えられる島においては、太陽光発電との併用利用について検討を深めたいと考えています。
  • 不確定要素が多い中、シミュレーション用のモデルを開発し、実際に適用した場合の問題点を明らかにした点は大いに評価できる。
    一方で、例えばP13の水素蓄電導入コストを見ると、再エネ導入比率50%で都立高校で5-10億、環科研では30億程度(3,000百万円)かかることを考えると、LiB、H2MHなどが低価格にならないと導入は難しいという現状で、今後どのように進めて行くかは非常に難しいと感じた。
  • 水素蓄電導入コストと各LiB、FC、H2MHなどの要素技術の進展と価格低減がどこまで進むと実際に導入可能なのか示していただけると良いと思った。
  • H31年度の報告では、経産省やNEDOが示す現状価格と将来価格目標を基にした試算で、2030年度の水素蓄電導入コストが現状よりも70~80%低減が期待できることを示させて頂きました。今回の試算では、この国等の資料の不足部を補完した4パターンでの現状価格の試算を行いました。この従来の試算結果との比較についての説明等が不十分でした。また、導入の目安として示していた導入コストを電気料金単価に置き換えた試算についても、今回は示しておりませんでした。今後は、これまでの取組の経過と成果を正確に表現する報告に努めて行きます。
  • 水素蓄電エネマネ実験施設の構築と、システム導入に向けた最適施設の検討手法ができたことは高く評価できる。
    CO2排出実質ゼロに向けた期待の技術であり、実現に向けて着実に進めていただきたい。
  • FC・WEの性能向上の必要背に関して、機器メーカーへの開発を促す必要性が述べられているが、具体的な開発を促進させるためのアイデアはあるのか。
  • 現時点においてメーカーに開発を促す具体的なアイディアはありませんが、行政(都)を交えて、機器メーカーとの意見交換等を行う必要があると考えています。
  • 特徴の異なる4つの都有施設を対象としたシミュレーションと再現実験から、シミュレータの高度化に向けた対応がまとめられている。また、コストやスペースなどの観点から導入効果の期待できる施設等の特性の考察まで研究を進めたことは評価できる。さらに、大島と母島をモデルとした再エネ由来水素蓄電エネマネを適用するシミュレーションを実施し、その結果から具体的な課題が抽出されており、今後の展開への活用が期待される。
  • 個々の機器の性能評価を詳細に検討されたうえで,スペース,コスト等の観点から,施設の特徴に最適なシステム構築および動作を明確に示されたことは大変有用な成果であると評価される。
  • 水素貯蔵に関する保安規制,FC以外の水素利用機器(例えば水素ボイラーや水素エンジン)適用なども検討してはいかがかと思われる。将来的にはLCAによるシステムの検討も考えられるかと思う。
  • 本研究をスタートさせたH28年度当初は、遠隔地(福島県)からのCO2フリー水素の都内利用の視点を持ちつつ、マクロ的な検討ではあるものの、水素貯蔵方法の比較を含め、水素ボイラ/水素ガスタービン/水素エンジンといった様々な水素利活用モデルを作成し、ライフサイクルコストの評価等を行いました。その後、現在の水素蓄電エネマネに焦点を当てた研究に絞ったところです。エネルギー利用に関しては、熱利用やコスト等の視点からもFC以外の最適な水素利用機器の適用についても検討を深める必要があると考えております。
  • 再エネ由来水素貯蔵・発電システムの都有施設への導入効果、島しょへの導入方法の検討について、定性的な評価が進められ、次年度以降の研究につながる知見が得られていると見なされます。一方、シミュレーション結果と実験結果との乖離が大きく、シミュレータの高度化が計画通りには進んでいるとは言いがたく、今後の取り組み方の整理も必要と考えられます。
  • いろいろな考察を積極的に同時に進められていることは、オプションの幅を広げる上で参考となりますが、一方で分析評価にまとまりがなくなり、導入の方向が見えにくくなっているように思われます。それぞれの導入先でどういう理由でどのように再エネを導入して行くべきかを一覧できるような分析評価、まとめ方を行っていただくのも良いのではと思います。
  • カーボンマイナスに向けて、様々な事業所等に適した再エネ利用の方向性が示せるような分析評価やとりまとめ方について、ご指摘を踏まえて検討致します。