東京都環境科学研究所

水素蓄電を活用したまちづくりに向けた調査・研究(2021-2023年度)

令和4年度外部研究評価委員会 継続研究の中間・事前評価

研究テーマ
水素蓄電を活用したまちづくりに向けた調査・研究【継続】
研究期間 2021~2023年
研究目的 再生可能エネルギーを有効かつ最大限に活用可能とするための技術である水素蓄電エネルギーマネジメントの実証導入等を通じて、都内の建築物やエリアへ水素蓄電エネマネを用いた再エネ100%導入を目指したまちづくりに向けた調査・研究を行う。
研究内容
  • (1)建築物等への水素蓄電エネマネの実機適用における運用と評価
  •  ①最適運転手法の検討対象
  •  ②運用時の水素蓄電エネマネ構成機器のデータ取得と解析等
  •  ③水素蓄電エネマネの規模拡大に向けた試算と評価
  • (2)地域における再エネシェアリングモデル事業を通じた水素蓄電エネマネ最適導入モデルの作成
  • (3)再エネ100%に向けた再エネ電力調達に係る調査
中間評価 A 2名、B 3名
評価コメント及び対応
  • 再エネ由来水素貯蔵・発電システムの都有施設や島しょへの導入効果や課題について、定量的な評価が試みられ、次年度以降の提案につながる知見が積み上げられている。
  • 再エネ依存率と設備コストは背反するので、2050年目標の再エネ100%に今の時点で囚われすぎると、非現実的な中抜けの分析評価に終わらないか危惧されます。ロードマップに沿った再エネ依存率でのコスト評価は考えられないかと思う。
  • (1)都有施設において、水素蓄電エネマネで、再エネ比率 10~90% を賄う場合の設備規模や費用を算出し、再エネ比率50% を超えると水素蓄電はを蓄電池のみよりも安価であることが確認されたことは意義ある結果と評価される。
    (2)はこれまで蓄積された水素蓄電エネマネに関する知見を展開できるフィールドとして評価できる。
  • 【問】(1)について、不足する電力は再エネ100% 電力を外部調達を想定しているが、現状、再エネ電力供給事業者の経営環境は安定しているとは言い難く、これを前提にすることはリスクが高いのではないかと懸念されます。また、再エネ比率を上げるほど電気料金単価が上昇することについて、都民の理解をどのように得ていくのかの議論も必要ではないでしょうか。
    (2)について、地域住民はどのようにかかわっていくのでしょうか。
  • 【答え】南大沢での再エネシェアリング推進事業において、地域の住民が直接的に関われる内容としては、電気自動車のカーシェアリングによる利用があります。この事業では、対象施設は限られ、また、導入設備の規模も小さいため、地域住民が日常生活において再エネの電力融通に関わることはありませんが、対象施設では事業説明用のパネルを掲示するほか、地域のイベントの中での取組を紹介するなどの地域住民への広報が行われています。
  • 規模、電力需要、周辺状況などを勘案して、実施可能性を検討したことを評価する。
  • 水素蓄電を利用したエネルギーマネージメントのシミュレータを構築し、再生エネルギー100%を目指した地域エネルギーシステムの実現に資する有益な知見を蓄積し、導入に向けた課題の整理を行った。計画に沿って適切に研究は実施されており、今後の進展が期待される。工学的に価値のある知見が得られていると思われるので、学会で積極的に成果を公表して頂きたい。
  • シミュレータにより得られた定量的な結果に基づき、再エネ100%導入実現に対する課題を整理したことは貴重な成果であると思われる。非実現的でも構わないので、本シミュレータには導入されていない技術等の導入も含めて、再エネ100%が実現できるシステムを仮想的に構築い、その課題解決に向けた方策を提示されることを期待する。
  • 水素蓄電の適用に向けて、事業性(コスト)も含めて検討し、課題を挙げられている点は高く評価できる。
事前評価 A 1名、B 3名、C 1名
評価コメント及び対応
  • いろいろと制約のある中で知恵を絞られ、スイソミルに導入する設備を用いた運用試験、再エネシェアリング事業の評価などが計画されていますが、研究の出口が今一つ明確には見えず、手詰まり感のあることは否めません。
  • 研究成果の目玉の一つとされる「スイソミル」への導入設備の仕様は、30年前に研究機関で実証実験が行われた規模・内容にも及ばないもので、今更感があります。30年の進歩が見える仕様に変えられないのか、それができなければ税金を投入する意義に乏しくないか、精査する必要があるように思われる。また、学協会での成果発表を期待する。
  • 2050年目標の再エネ100%を今の設備でどう実現するのかということに翻弄されていないかと思われる。2050年には、現時点で想像困難な設備・システムが実用化されている可能性があり、もう少し現在の実情に近い再エネ依存率での活用を考えるのも一手ではないかと考えられる。時代に30年は後れている見える化設備の新設に税金を投入するのか、コスト度外視で島しょに一つでもモデルケースの設備を造るのか、先導役の洞察が期待される。
  • (1)スイソミル展示での実機運用は、再エネに対する都民の関心を高める効果が期待される。
    (2)再エネシェアリングの中での水素蓄電エネマネ導入モデル作成により、導入効果が数値化化されることが期待される。
  • 実装に向けた都内への展開を検討することを評価する。一方で導入時やその後の維持管理にかかる費用をどのように見積もるのかは昨今のエネルギー事情や資材価格により大きく変動することも考えられるため、想定が難しいのではないかと思う。
  • 建築物等でのエネマネ実機試験とそれらの結果に基づく最適運転手法の検討、および地域における関連機器の運用データに基づく適正な導入モデルの検討という研究計画は適切であり、その成果が期待される。
  • 【問】実証試験結果とシミュレータによる解析結果との比較等を通して、前年までの研究成果で明らかになった再エネ100%導入に対する課題について、何らかの解決策が提案できるような成果を期待する。クローズされた地域内で再エネ100%導入を目指すだけではなく、特性の異なる地域(例えば太陽光発電量が余っているとか、風力発電に向いている等)との連携などを考慮することは可能か。
  • 【答え】都では、再エネ電力の利用拡大を図る方策として、都内の事業者が都外に再エネ電力を所有しようとする第3者と電力調達契約を結び再エネ電力の供給を受ける場合や都外にある事業所等に再エネを導入して一般送配電事業者の送電網を利用して都内の自社施設に電力を供給する場合においても、再エネ設備や蓄電設備の導入に係る費用を助成する制度を開始しました(令和4年7月~)。
    次年度の研究の中では、再エネ100%導入を目指す解決策の中で、こうした都外の再エネ発電設備の利用についても言及する予定です。
  • 2022年度は再エネシェアリングに重点があるような印象だが、水素蓄電に関しても熱需要の高い用途への適用など、メリットを活かす活用法についての検討を進めてほしい。