東京都環境科学研究所

高濃度光化学オキシダントの低減対策に関する研究(2022-2024年度)

令和5年度外部研究評価委員会 継続研究の中間・事前評価

研究テーマ
高濃度光化学オキシダントの低減対策に関する研究【継続】
研究期間 2022年度~2024年度
研究目的 光化学オキシダント(Ox)高濃度日を減少させるため、人為起源の中でOx生成への寄与が大きい揮発性有機化合物(VOC)成分や更なる対策が必要な発生源を特定するとともに、植物や大気中の二次生成によるOx生成への影響等を把握し、人為起源VOCによるOx生成への寄与割合の推定に資する調査研究を行う。
研究内容
  • (1)対策が必要なVOC発生源の把握
  •  ①VOC発生源調査
  •  ②関東地方大気環境対策推進連絡会微小粒子状物質・光化学オキシダント調査会議の合同調査における広域的検討
  • (2)植物による光化学オキシダント対策への影響評価
    これまでの植物起源VOCによるOx生成への影響に加え、植物による大気汚染物質の低減効果とのメリット・デメリットの両面からの植物のOx生成への影響を評価するため、観測体制を整備し、大気汚染物質の低減効果を把握する。
  • (3)二次生成によるオキシダント生成への影響評価
    二次生成物質によるOx生成への影響を評価するため、Ox生成に関連する大気中の二次生成物質の観測体制を整備し、その挙動を把握する。
中間評価 A:優れている       5
B:普通
C:改善の余地あり
D:計画変更ないし中止
評価コメント及び対応
  • 光化学オキシダント生成の要因として、VOCの定点観測や広域調査によるOx生成への影響が分析・評価され、一定の傾向が明らかにされています。また、VOCの連続観測に向けた設備・体制の準備も進んでいます。外部発表も継続的に実施されています。成果説明のスライドは大変わかりやすく、研究内容・成果の適切な整理ができているものと評価できます。
  • (質問)VOC観測について、現行調査法とPTR-MS法とで相関の低い物質が多々あったようで、観測状況の写真を見ると、観測点の気流が両者で相当に異なるようですが、問題はないのでしょうか。
  • (回答)PTR-MSで取得した濃度データについては、今年度実施した標準試料を用いた校正結果を反映させ、再度GC-MSの結果と比較を行う予定です。
    また観測点の違いについては、VOC以外の物質(NOx)の測定において同質のデータがとれていることを確認しています。今後VOCについても並行した観測を継続することで測定の妥当性を評価するとともに、必要に応じて観測点の変更を行うことで環境実態の把握に努めたいと考えております。
  • 光化学オキシダント(Ox)高濃度日を減少させるため、揮発性有機化合物(VOC)成分測定を行い、オゾン、NOxと共にその増減を検討したことは高く評価できます。
  • MCMは1次元モデルと思いますので、移流の影響をどのように解析するのか検討してください。また、オゾンが増加している時に、NOxリミットなのか、特定のVOCリミットなのか解析できると、対策に貢献できると思います。
  • 様々な調査・分析から、VOC発生源の特定が進めらており、1次排出と2次反応に分類した評価は高く評価できると思います。
  • 植物のVOCへの影響が発生と汚染除去(吸収)の両面を持っている点が面白く、総合的に+か-か、という点は興味があります。
  • 光化学オキシダントの環境基準達成状況を改善するために必要な研究課題であると思われる。オゾン生成に及ぼすVOCの影響に関する系統的な計測が実施され、詳細な解析結果が得られているものと評価される。計測結果は複雑な挙動を示しており、より科学的な見地からの考察が望まれる。研究1年目から積極的な成果の公表にも努めている。
  • (質問)詳細な大気化学反応モデルを用いた解析を行うことで計測結果を説明する機構解明を期待する。
    6/30と8/2は似たような気象条件にも関わらずOx濃度に相違が見られるのは主としてNMHCによるものでしょうか、そもそもNMHCの濃度がこれほど違いがあるのはなぜでしょうか。
  • (回答)本研究の大気化学反応モデル(ボックスモデル)では、CO濃度の時間変動から求めた時刻別の大気拡散係数をモデルに与え、化学物質の拡散消失を考慮しています。ご指摘の通り、半日のスケールで見ると6/30と8/2は似たような気象条件ですが、両日の時刻別の大気拡散係数には大きな違いがあり、これがOx濃度の相違を生んだ要因の一つと推測しています。具体的には、両日とも大気拡散係数が午前11時を境に増大する傾向があり、その増大の程度は、8/2が6/30より2倍以上大きいことを確認しています。つまり、8/2は6/30の2倍以上の強度で午前11時以降に大気中での拡散希釈作用が高まり、これにより、両日で12時~16時のOx濃度とNMHC濃度に相違が見られた(8/2は6/30より低かった)と考えられます。この他、測定地点が工業地帯の近隣に位置しており、工業地帯の稼働状況など様々な条件によりNMHC濃度が変動を受けていると考えています。
  • (1)夏季のOx高濃度予想日に実施したVOC調査で、北寄りの風の日に最大オゾン生成濃度やNOxが低濃度であったがOxは高濃度という特異な結果が得られたことは興味深い。東京都、神奈川県、川崎市、横浜市、千葉市と連携したVOC広域調査を関東PM・Ox調査会議の合同調査へ展開したことは、より広域でVOC]発生源を特定することへつながるものと期待される。(3)PTR-MSを導入により、二次生成が示唆されていた物質の多くを連続観測できる目途がついた。
  • (質問)植物による光化学オキシダント対策への影響評価については屋外植物実験室の整備とありますが、農業用ハウスのような施設でしょうか。
  • (回答)ご指摘の通り、小型(床面積10m2程)の農業用ハウスのような施設です。全面ガラス張りで自然光を取り入れながら、空調機による温度制御や、人工光源による補足的な光量調整が可能な施設です。
事前評価 A:優れている       3
B:普通          2
C:改善の余地あり
D:計画変更ないし中止
評価コメント及び対応
  • 前年度の分析結果から帰結するVOC発生源の把握調査、PTR-MS法の課題の検討、BVOCの正味の作用を評価するためのBVOCの吸収量測定など、研究目的に沿う内容が計画されていると考えます。
  • VOC観測については、高い時間分解能は低い時間分解能で見える傾向が見えにくくなることもある点に留意し、測定の目的に応じて両者を使い分ける必要がないか、精査が必要と考えます。
  • 植物のVOC放出と吸収の両面からの定量評価により、都市緑化デザインへの有用な知見に結び付けられることを期待いたします。
  • VOCに注目した光化学オキシダント対策に期待します。
  • MCMモデルによる解析をどのように活用するのかわかりやすい方針をご検討ください。
  • PTR-MSという新たな計測器により、連続的な測定ができると、より詳細な傾向がつかめるものと期待できます。
  • 2022年度の研究成果をふまえたより発展的な研究計画が策定されていると思われる、シミュレーションや高時間分解能な計測を実施することで詳細な解析が可能になると評価される。
  • (質問)化学反応モデルのMCMはどの程度の大きさ(化学種,素反応数)なのでしょうか。計算負荷等の観点から、大気輸送シミュレーションと組み合わせることは可能でしょうか。
  • (回答)本研究のボックスモデルで使用しているMCM (v3.3.1)には、6,900の化学種を対象とした17,500の素反応式が組み込まれています。大気輸送シミュレーションとの組み合わせにおいては、計算負荷等の観点から、一般的にはMCMを簡略化したSAPRC07やCB05(The carbon bond chemical mechanism)が使用されているように、詳細モデルであるMCMを大気輸送シミュレーションに組み合わせるのは困難と思われます。
  • シミュレーションモデルによる解析は、VOC発生源の把握につながるものと期待される。また、植物起源VOCによるOx生成への影響と、植物による大気汚染物質の低減効果の把握については、都の緑地・街路樹等の育成・保護の施策に資するデータとなる。