東京都環境科学研究所

グリーンインフラによる暑熱環境改善効果に関する研究(2022-2024年度)

令和5年度外部研究評価委員会 継続研究の中間・事前評価

研究テーマ
グリーンインフラによる暑熱環境改善効果に関する研究【新規】
研究期間 2022年~2024年
研究目的 市街地再開発に伴う都市緑地創出による暑熱環境改善効果を、省エネ効果等も含め定量的に明らかにし、都のヒートアイランド対策とグリーンインフラ(都市緑化)のさらなる推進に資する科学的知見を得る。また、複数の再開発地区を調査対象とすることで、緑の量や質の違いによる暑熱環境改善効果を比較・検討する。さらに、都市ヒートアイランド現象等に関する情報収集を行う。
研究内容
  • (1)都市緑地創出後の暑熱環境調査
  •  ①計画準備:本研究に必要な機材、調査方法及び計測する再開発地区2か所について、事前調査を踏まえつつ検討を行う。
  •  ②事前調査:計測する地区2か所を事前に調査・確認し、課題や現地条件を把握する。
  •  ③実地計測準備:計測趣旨を事業者や住民に説明し、計測機器設置等の協力を求める。
  •  ④実地計測の実施:再開発地及び近隣建物の気温・湿度等について、7月から9月までの間の1か月以上、連続計測を行うことに加え、熱画像撮影による輻射熱計測を行い、都市緑地創出後の暑熱環境データを収集する。また、同時に、電力消費量の計測を行うか、もしくは、スマートメータ等による既存の電力消費量データを収集する。
  •  ⑤データ整理:収集した計測データを整理し、品質チェックを行う。
  •  ⑥データ解析:整理した計測データの統計処理等を行い、体感温度や熱帯夜日数等を算出することにより、都市緑地創出後の暑熱環境の特性を把握する。
  •  ⑦シミュレーションの実施:熱流体解析モデル等を用いて再開発による緑地創出後の暑熱環境の再現シミュレーション等を行う。
  •  ⑧暑熱環境変化の分析:上の緑地創出後の調査結果を、令和2年度に実施した緑地創出前の調査結果と比較し、緑地創出前後の暑熱環境の変化を定量的に分析する。
  •  ⑨課題抽出:上の結果から、緑地創出前後の暑熱環境変化について課題抽出等を行う。
  • (2)ヒートアイランド等に関する情報収集
中間評価 A:優れている        3
B:普通           2
C:改善の余地あり
D:計画変更ないし中止
評価コメント及び対応
  • 新規の再開発ビルの竣工後の周辺の地表面温度と気温観測から、再開発の緩和効果および消費電力量の削減効果が求められ、微気候改善の知見が積み上げられています。また、外部発表も積極的に行われています。
  • 再開発に伴う緑化の効果が研究の主題となっていますが、観測結果は緑化の効果だけでなく、建物の日陰や気流変化の効果も重畳し、個々の効果が判別できない状態になっていないか危惧されます。たとえば、高層ビルの北西側の地域で昼過ぎの気温が低下していると言われても、緑と日陰の効果をどう切り分けられたのかが単純には見えません。シミュレーションをより活用する必要がないかと考えます。
    また、気温の消費電力量への影響は、他の研究者も調査してきていることなので、それら過去の研究結果との比較も期待したいところです。
  • 建物建築前と竣工後で気温などを測定し、暑熱環境を評価したことは重要と思います。
  • (質問)シミュレーションによるWBGTの平均0.1℃低下というのは統計的に有意なのでしょうか。
  • (回答)シミュレーションは計算負荷が高く1日分しか計算していませんので、統計的検定はできていません。シミュレーション日数を増やすか、別の効果的な評価指標を検討してまいります。
  • 植物の生長を丁寧に追いながら温熱環境への影響に関して調査を行うことは大変貴重だと思われます。
  • シミュレーションによる解析結果において、WBGTを平均や局所だけでなく、度数分布などで表現すると効果が分かりやすいように思いました。
  • 緑化創出による地表面温度の低下傾向を温度の実測とシミュレーションにより検証したことは評価される。研究成果の公表も積極的に実施されている。
  • 定量的な比較を行う際には、計測装置(温度センサー)の計測精度を考慮して考察を行うことが望まれる。また、測定結果とシミュレーションの結果を比較することでシミュレーションの妥当性検証も実施すべきかと思われる。
    武蔵小山と調布の結果や前年度までの結果を見ると、温度変化には緑化面積以外の要因も影響しているように思われる。
  • 都内2か所(武蔵小山、調布)の再開発地区と、それらの隣接市街地における実地計測の結果と2020年調査の結果を比較、また熱流体解析モデルを用いた暑熱環境シミュレーション
    を実施することにより緑地創出による暑熱環境改善効果を示したことは高く評価できる。また、緑地創出による暑熱環境改善効果が電力消費量削減にもつながる可能性も示された。
事前評価 A:優れている        2
B:普通           3
C:改善の余地あり
D:計画変更ないし中止
評価コメント及び対応
  • 前年度までの研究で再開発のあった区画に対して、樹木成長後の暑熱環境調査、および消費電力調査による緑の量の環境改善効果の解明が予定されており、目的に沿った計画が立てられていると考えます。
  • 前年度までの調査研究では、緑化の効果だけでなく、建物の日陰や気流変化の効果も重畳した暑熱環境改善効果しか見いだせていないので、本年度の緑の量的な観測データにより、研究の主題のグリーンインフラの価値が正しく評価されることを期待いたします。
  • シミュレーション解析は観測結果を検証するだけでなく、現実にはできない環境変化を想定し、その影響を推測してこそ活きるものではないかと考えます。シミュレーションならではの分析を期待いたします。
  • 調査は継続して行っていただければよいと思いますが、もう少し因果関係を整理して、何と何の間の関連を調査しようとしているのか方針を明確にしていただくようお願いします。
  • 緑化部分の温度は局所的に低下しますが、周辺にまではあまり影響を及ぼさないというのが2022年度のシミュレーションの結果のように思います。この研究によって緑化と暑熱改善がどの程度空間的に関連があるのか明らかにしていただくことを期待します。
  • 植物の3次元レーザーによる計測結果をモデル化し、シミュレーションで再現できると植物の成長による効果の評価が可能になると思いました。
  • 電力消費量への影響についての評価は、比較対象などの観点で少し難しいように感じます。
  • 植物の成長を追うので、長期にわたる調査の継続を期待します。
  • 再開発計画に基づいた研究計画が策定されており、継続的な調査により有用な知見が得られることが期待される。
  • 四谷及び北青山の再開発地区で昨年度と同様のデータ収集を実施、昨年度の2か所の結果を合わせて信頼性の高いデータとなることが期待される。
  • 都内の再開発区域における緑地創出のガイドライン等につながることを期待します。