ヒートアイランド東京の実態を探る
− 2002年夏期における都区部の気温分布の特徴 −
基盤研究部 安藤晴夫
1 はじめに
大都市の高温化、いわゆるヒートアイランド現象については、近年、熱汚染という深刻な環境問題として捉えなおされ、各方面でその対策が検討されている。東京都においても、熱中症や都市型集中豪雨の増加、光化学オキシダント濃度の上昇等との関連が取りざたされ、社会的関心も高まるなかで、行政上の最重点課題の一つとしてヒートアイランド対策を位置づけ、全庁的な取組みを行っている。
東京都環境科学研究所も、その一環として、東京都区部におけるヒートアイランド現象の実態解明を目的に、平成14年度から東京都立大学と共同で、都内120地点での詳細な気象観測を開始した。ここでは、これまでの解析結果から明らかになった都区部の気温分布の特徴などについて報告する。
2 調査方法
気象観測の仕組みを図1に示す。このシステムは、都内20地点のビル屋上で、高精度・多項目の観測を行うMETROS20と、区部の小学校100校の百葉箱に設置した温湿度ロガーで高密度に気温・湿度の観測を行うMETROS100からなっている。また、どちらも10分間隔で観測が行われている。
図1 気象観測システム(METROS)
3 結果と考察
気温分布の特徴
梅雨明けの7月20日から8月31日までの43日間を2002年の夏期とし、その期間の気温データ(10分値)から計算した地点ごとの各種平均気温や真夏日・熱帯夜日数等を平面補間して分布図に表し、その地域的特徴について検討した。
(1)
30℃、25℃を超えた時間割合の分布(図2)
30℃を超えた時間の割合は、千代田・港・新宿・渋谷区や練馬区の東寄りの地域及び荒川・足立区など、主に都心部とその北側の地域で高く、一方、東京湾岸に位置する江東・江戸川区などでは低かった。
一方、25℃を超えた時間の割合は、新宿・渋谷・目黒区を中心とする地域から南側と台東・千代田・中央区から墨田・江東区まで広がる地域で高く、埼玉・千葉県県境に近い地域で低かった。
(2)
日最高・日最低気温平均値の分布(図3)
日最高気温が高い地域は、都心部の港・渋谷区から北西方向に、新宿・豊島・中野区、さらに内陸部の練馬・板橋区まで広がり33℃以上であった。一方、江東・江戸川区、品川区などの東京湾の沿岸部ではそれより1℃以上低かった。
日最低気温は、大田区や新宿・渋谷・目黒区、港・中央区、台東・墨田・江東区など都心部の東京湾岸に近い地域で高く25.5℃以上であった。内陸部の練馬・杉並区周辺では低い傾向を示した。
以上の結果を取りまとめると、30℃超過時間割合や日最高気温、真夏日日数の分布は、昼間の気温の特徴を示し、25℃超過時間割合や日最低気温、熱帯夜日数は、夜間の気温の状況を示していると考えられる。すなわち、日中の気温は、都心部から北西方向の内陸部で高く、沿岸部では、それに比べて上がりにくい。一方、夜間(明け方)の気温は、都心部から南西側が、内陸部の地域に比べて低いことを示している。
図4は、昼と夜の気温の高低を2軸とした平面に 図4 気温による地域分類とその要因
気温の高低が顕著な区を割り付けたもので、各区の
位置や地域的特徴を考慮すると、都内の気温分布に、東京湾からの海風や都市活動などが影響要因となっていることが考えられる。しかし、このことに関しては、さらに、データに基づく検討が必要である。
4 おわりに
これまで、観測結果から都内の気温分布の特徴を述べたが、地域の気温がどのような要因によって決まっているのかを明らかにすることは、ヒートアイランド対策の効果を予測する上でも重要である。そのため、土地利用状況や人工排熱量、地形などのいわゆる背景情報と気温との関連について、現在検討を行っている。
用 語 説 明
熱帯夜・真夏日
日最低気温が25℃以上の日は熱帯夜、日最高気温が30℃以上の日は真夏日と呼ばれている。熱帯夜日数は1975年ころまでは年間15日前後であったが、1980年代以降急速に増加し、最近は30日を越えている。真夏日も増加傾向が認められ、熱中症の発生数と相関があるとの報告もなされている。
30℃、25℃を超えた時間割合
10分間隔で測定された43日間分の気温データのうち、30℃および25℃を超えたデータ数の割合を示したもの。30℃は、日中の気温分布、25℃は夜間の気温分布の特徴を表している。