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東京都は、平成12年12月に「緑の東京計画」を策定し、平成27年度までに取り組むべき緑作りの目標を「みどり率」として設定し、区部では現状より約1割増の約32%、多摩では現状の約80%を維持する目標を掲げました。

 また平成12年には「東京における自然の保護と回復に関する条例」通称自然保護条例を全面的に見直し、市街地等の緑化の推進を一層進める体制を作りました。

 近年、大都市におけるヒートアイランド現象対策が大きな課題になるなかで、その緩和のためにも、これまで以上に市街地の緑を回復することの必要性が認識されています。

 このため、市街地だけでなく、新たに緑を増やせる緑化スペースとして建築物の屋上や壁面,ベランダなどに着目し、平成12年4月から屋上等の緑化指導を開始しました。

 さらに、平成13年4月からは、一定規模以上の敷地を有する建築物を対象に屋上等の緑化を義務付け、事業者、都民の方々の理解と協力を得ながら推進しています。

 屋上緑化がヒートアイランド緩和に効果があることは、よく知られています。これは、屋上緑化された建物では、植物や土壌の水分の蒸発散により熱が奪われ、気温の低減効果が期待できるほか、室内に熱が伝わりにくくなるため、クーラーの使用が減り、室外機から出る人工排熱も減少するからです。

 東京都は自然保護条例で、一定規模以上の建物の新築・増築時には屋上緑化を義務付けていますが、既存の建物には特に義務づけは行っていません。屋上緑化を行うには、屋上に土壌や散水設備等を新たに設ける必要があり、既存建物では建築基準法の荷重制限もあることから、重量のあるものを設置することには様々な困難があるからです。
 
 既存の建物を含め、屋上緑化をひろく普及するためには、新たな緑化施設、軽くて薄い土壌を用いた緑化施設の開発が必要になっています。


 環境科学研究所では、平成15年8月から、緑化によるヒートアイランド緩和効果を検証する研究を始めました。この研究は、既存建物の屋上に普及可能な軽量・薄層・ローコスト・ローメンテナンスの緑化施設を試験的に設置し、これらがヒートアイランドの緩和にどの程度効果があるのかを明らかにし、屋上緑化の普及に役立てることを目的としています。

平成15年の屋上緑化実験区写真 平成15年の屋上緑化実験区ヒメイワダレソウ写真
平成15年の実験区:環境科学研究所本館屋上に設置。このときは次のような植物種を使った。

 <コウライシバ>標準的な屋上緑化で採用されている種
 <セダム(メキシコマンネングサ)>近年需要が多く、東京都の義務化による屋上緑化では大半がこれを使っている。
 <ヒメイワダレソウ>いわゆる雑草とよばれる広葉植物。関西では高速道路の法面や水田の畦道の土留めに使われている。

 


<平成15年の観測結果とその解析>


 平成15年度は冷夏ではありましたが,以下の観測結果を得ました.

(1) 薄層屋上緑化技術で、蒸発散効果による大気温度上昇抑制効果を確認しました!
  屋上緑化をした区画では、植物や土壌から水分が蒸発散するため、大気を暖める熱(顕熱)や階下に伝わる熱(伝導熱)が減り、大気や建物を直接暖めることはない気化熱(潜熱)が放出される割合が高くなることを確認しました。
  日中、緑化しない区画は、表面温度が約55℃になるのに対し、屋上緑化した区画は約30℃と、25℃程度低い結果となりました。これは、コンクリート躯体に伝わる熱量が約1/5に減ったことによるものです。
      
(2) 植物の違いや散水条件によるヒートアイランド現象緩和効果への影響を確認しました!
  温度上昇抑制効果に関係する蒸発効率は、散水頻度が高い時期には、植物の違いによる大きな差は見られませんでした。一方、散水頻度を減らした時期でも、イワダレソウ(耐暑性のある多年草)や芝は、一定以上の蒸発効率を維持しました。
  芝の場合、貯留雨水のみに依存し、散水を行わなかった区画も、散水を実施した区画と同程度の蒸発効率を示しました。



屋上緑化の効果については、既に各種のシミュレーションの結果、緑化対策の実施により東京の夏季の平均気温が低下することが報告されています。しかし、屋上緑化によるヒートアイランド緩和効果について、温度データだけでなく建物への熱の出入り(熱収支)を含めて総合的に観測した事例は、数例しかなく、それも実験規模は小さなものです。この研究は、本格的な観測を伴うものとしては、全国的にも初めてのケースと言えます。

 なお、この研究は、平成15年度東京都重点事業の一環として、農業試験場、土木技術研究所と共同で実施しました。


【環境科学研究所年報掲載論文】

2007年
 【事業報告】貯水型屋上緑化システムのヒートアイランド緩和効果に関する研究

2006年
 【事業報告】貯水型屋上緑化システムの開発と基本性能評価

2005年
 【事業報告】屋上緑化のヒートアイランド緩和効果(その2)

2004年
 屋上緑化のヒートアイランド緩和効果 ―軽量薄層型屋上緑化に関する検討―


【参考資料

1 緑化計画と屋上緑化

2 都庁舎グリーン化プロジェクト


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