地域で育った木材 で、地域に愛される建築を!人が集まる空間づくりに取り組む内田洋行さんを取材しました。
オフィスや公共施設、学校など、働く場・学ぶ場のICT構築や空間設計、機器開発などを行う株式会社内田洋行。後編では、地域で育った木材を地域内で有効活用するための仕組み「タニチシステム」を推進する谷知大輔さんにお話を伺いました。
パワープレイス株式会社(内田洋行グループ)
プレイスデザイナーセンター 教育公共・ソーシャルデザイン部 ウッドデザイナー
谷知 大輔 氏
― 国産木材の中でも、地域産木材を活用するプロジェクトに取り組まれているそうですね。
谷知さん:
地域の資源を使って、地域に還元する循環の仕組みを作ることが、サステナブルだと考えています。例えば山形県高畠町では、地域の木材を使って町立図書館と屋内遊戯場「もっくる」を建設しました。
音楽の演奏や発表会もできる図書館と、多彩な木製遊具がある遊戯場は、町内外からたくさんの人が集まる場になっています。全体で1200立米の原木を使っており、図書館では下地を除く木材の99%、遊戯場では88%が高畠町産です。
― これだけたくさんの地域産木材を揃えるには、大変なご苦労があったのではないですか?
谷知さん:
そうなんです。住宅用の建材であれば、モジュールが決まっているので、数量も多く流通しています。他方、非住宅用の建材は、高畠町の図書館や遊戯場のようにモジュールなどは関係なく設計されるので、在庫品では対応できません。そのため、その都度必要な木材を調達できるよう、カスタマイズした流通の仕組みが必要になります。こうした中で、特に公共施設の案件では、年度内に建材を調達する必要があるので、納期のコントロールが非常に難しいんですね。地域産木材を地域の事業者で加工する場合、一事業者だけでは生産能力が追い付かないこともあるので、複数の事業者と連携する必要があります。また、コスト管理や品質管理も欠かせません。
そこで、地域内での原木供給から製材・加工・流通までを一手に担う「タニチシステム」という仕組みを生み出しました。高畠町では、私自身が地域の事業者に一つ一つ電話などでアプローチして、最終的に21事業者とのやりとりを行ったんです。また品質面では、虫食いや節がある難しい木材などを、用途によって使い分ける形で選別も行いました。流通のコーディネートや品質・コスト管理を担って、工事業者さんに地域産材を使える状態にして納品しました。
― 木材が地域内で循環しやすい仕組みがあれば、地域の活性化にもつながりますね。
谷知さん:
「製材してお金を回収したら終わり」ではなく、自分たちの仕事によって地域で愛される建築が出来上がれば、そこに誇りが生まれ、地場産業の活性化につながります。
昨今は、出来上がった空間だけでなく、そのプロセスにも注目が高まっています。私は「地域に愛される建築となるために、建築のプロセスにおいても、その仕事に愛情が必要」と考えています。
― こうした取り組みは、広がりつつあるのでしょうか。
谷知さん:
はい、例えばJR東日本東京建設プロジェクトマネジメントオフィスとともに、岩手県の鉄道沿線にある森林(鉄道林)の木材を、県内で加工し、同社オフィスの什器に活用するプロジェクトを実施しました鉄道林は暴風雪などから鉄道の安全運行を守ってきましたが、定期的に更新しないといけません。
従来は役目を終えた木材はバイオマス燃料やチップとしてのみ活用されていました。しかし鉄道林をオフィスで使えば、そこで働く従業員の皆さんの鉄道の安全運行の意識を高め、安全に対する想いの継承につながっています。コストも従来と比べて同等という結果になりましたが、コスト以上の価値を生み出していると考えています。
― 製品や取り組みの背景にある「ストーリー」に、関心が高まっているということですね。
野菜などで農家さんの顔が見えるように、木材についても、この地域のこういう人が関わっているという「顔が見える」情報へのニーズが高まっています。モノづくりのプロセスなど「ストーリー」を大切にする時代になっていますね。
東京のような都市部は、様々な人が様々なモノを消費する場所なので、必ずしも地域内で循環できないかもしれません。しかし、「使う責任」として、どこから原材料が調達され、どういう流通を経て、自分たちの手元に来ているのかをしっかり把握することが大切です。
前編では、「国産木材の活用やレンタルサービスで資源を有効利用!」についてインタビューしています。
#これサー! Vol4. 【インタビュー】株式会社内田洋行(前編)
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