水素蓄電の意義
再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大の必要性
地球温暖化を抑制するためには、様々な分野からの取組が必要です。建築物においては、火力発電主体の系統電力からの供給を減らし、再エネ導入を拡大する必要があります。建築物のサイトへの再エネ設備を設置することで、災害などにおける停電の影響を減らすことができるメリットがあります。
一方、再エネ設備の設置に必要な場所の確保や投資回収を踏まえた設置費用などが課題となる場合があります。
再エネ電源と電力貯蔵
市街地であっても設置可能な再エネ電源として、太陽光発電は有力です。一方で天候(日射)に左右される太陽光発電の出力は、建物の需要電力とタイミングが合いません。太陽光発電出力が需要電力より大きい“余剰電力”の場合に、余剰分を売る、抑制する、電力貯蔵する、を予め選択する必要があります。
余剰電力の貯蔵方法
再エネ電源と電力貯蔵装置を組み合わせたものが「再エネ電源システム」です。
当研究科の研究では、一般的な建物においては、再エネ比率(需要電力量に占める再エネ電力量の割合)が30%程度以下の場合は、余剰電力が発生するタイミングは少なく、電力を貯蔵する必要性は得られず(電力貯蔵は行わずに余剰分は抑制または逆潮(電力系統に余剰電力を送電すること)するのが良く)、再エネ比率を30%程度以上にしたい場合には、余剰電力を貯蔵して、太陽光発電電力が需要電力を下回る“不足電力”のときに貯蔵した電力を使用する必要があることが分かりました。
ここで、再エネ比率が30~50%の範囲では、余剰電力を蓄電池に貯蔵するだけで良く、50%以上にする場合は、蓄電池と水素蓄電システムを併用する方が設備費用を抑えることが分かりました(※)。また、蓄電池のみでの電力貯蔵の方が、設置スペースも広く必要となる可能性があります。
※ 設定した構成機器の内容・価格によるもので、今後の価格動向に注意する必要があります。
蓄電池と水素蓄電システム
電力の貯蔵には、一般的にはリチウムイオン電池や鉛蓄電池などの蓄電池が使用されています。
水素蓄電システムは、余剰電力を用いて水電気分解装置(水素製造装置)で水素を製造し、水素貯蔵装置(水素タンク)で水素を貯蔵します。そして、電力が必要な時に、蓄えた水素を燃料として燃料電池で発電を行うものです。
蓄電池は、電力の充電や放電の時の電力の損失(ロス)が少ないというメリットがありますが、長期間の電力貯蔵では、自己放電するデメリットがあります。一方、水素蓄電は、水を水素と酸素に分解するエネルギーが大きく、燃料電池の発電効率が50%程度であることなど、蓄電池と比べて電力損失は大きいですが、蓄電池のような自己放電がないため、電力の長期保存には有利と考えられています。
また、水素蓄電では、水素製造装置、水素貯蔵装置、燃料電池の大きさのバランスを状況に合わせて自由度の高い設計が可能であり、余剰電力に応じた蓄電(充電)、蓄電量、出力(発電)をすることができるといったメリットがあります。
太陽光発電のような変動のある再エネを、季節を跨いで無駄なく使用する上では、蓄電池と水素蓄電システムを組み合わせた電力貯蔵システムが有効と考えられます。