活動団体情報・活動紹介

NPO法人 小笠原海洋島研究会(BOISS)

美しい島をいつまでも

日本本土から南へ約1,000㎞に位置するユネスコ世界自然遺産の島・小笠原諸島の父島を拠点に、2008年から自然環境の保全に向けた調査・教育・啓蒙活動を実施しています。
また、継続可能な資源循環型社会と自立した活力あるまちづくりを目指した提言や普及啓蒙活動を行い、自然と島民が共生できる豊かな島の実現に寄与する取り組みを進めています。

活動ジャンル
HP
http://ogasawara-boiss.jp/
SNS
海の環境を守る団体からのメッセージ

特定非営利活動法人
小笠原海洋島研究会(BOISS)
副理事 猪村 真名美 氏

東京都内でありながら、片道24時間の船旅でしか行けない小笠原諸島。世界自然遺産に登録された大パノラマの自然に恵まれ、固有の希少な動植物が多いのが魅力です。一方で、海ごみの影響が顕著に表れる場所でもあります。
そんな小笠原諸島の父島を拠点に、自然環境の保全に向けた活動を行うNPO法人 小笠原海洋島研究会(BOISS)副理事の猪村真名美さんに、活動の特徴、離島ならではの取り組み、今後の抱負などを伺いました。

BOISSでは現在、どのような活動に注力していますか?

2008年の設立当初より継続して力を入れているのは 、小笠原固有のオガサワラハンミョウやトンボ類といった希少昆虫類の保全と、海岸漂着ごみの回収活動の2つです。海洋漂着ごみの回収活動では、2010年から環境教育にも力を入れています。
BOISSの設立発起人は、ダイビングショップオーナーの山田捷夫、測量会社社長の横田保夫、東京都レンジャー(当時)の城本太郎という3名で、島民みんなで小笠原の自然を守りたいという思いを受け継ぎ、現在でもこの2つはとても重要な活動です。
元々、島民が個人ではなく皆で看板を上げて活動できるようにというのが設立の目的であり、2018年から地産地消部の取組みとして、亜熱帯に群生する「月桃」という多年草からつくる蒸留水の生産販売も行っています。さらに、2022年にはネイチャースポーツ部門が加わりました。トレイルランニングの体験会や講習会などのイベントを開催したり、島の子どもたちに自然の中を走る楽しさを伝えながら、ルート沿いのごみやランニング先にある海岸のごみを持ち帰る活動を行ったりしています。

海洋ごみのなかでも、マイクロプラスチックについては世間でも注目が集まっています。小笠原諸島ではいかがですか?

小笠原でも深刻な課題です。有人島の父島だけをとっても陸路ではアクセスしづらい海岸も多く、漂着ごみ回収には船を出す必要があるため、手間ひまがかかります。マイクロプラスチックになる前の大きなプラスチックごみを回収するだけでも時間がかかり、マイクロプラスチックの回収までは、手が回らないのが現状です。

村民との海岸清掃などでは、小さいお子さんにザルを渡して、マイクロプラスチックを拾ってもらうなどの工夫をしてきましたが、2019年、島の小学生を対象とした環境教育の一環で、マイクロプラスチックに特化したレクチャーとワークショップを開催しました。いくつかのチームに分かれてレース形式で回収量を競うなど、楽しみながら取り組める工夫を試みました。
その後、子どもたちやご家族からの反響もあり、砂遊び感覚で集められるよう、ザルを常設したマイクロプラスチックの回収ボックスを島民が良く利用する海岸に設置するようになりました。
都会的な娯楽のない小笠原の子どもたちにとって、海岸は大切な遊び場です。その遊び場をきれいにしようという気持ちを、どんどん子どもたちの間にも広げていきたいですし、実際に子どもたち自ら率先して拾うようになっている姿を見ると、うれしい限りです。

島内の行政や企業との連携も盛んに行われているそうですね。

行政、企業、NPOと所属が違っても、狭い島ですから、もともと近しい人間関係がありますし、小笠原の自然を守りたいという共通の目標があるわけですから、ご一緒しやすいですね。BOISSのメンバーは、ほかに本業を持ちながら活動していますので、こういう活動が心から好きなことを皆さん知ってくださっています。私たちも、行政や企業の方のお立場がわかりますので、役割分担とその連携がしっかりできていると感じます。そうした信頼関係があるため、安心して任せてくださるのだと思います。

東京の離島のなかでも、小笠原諸島は本土から圧倒的に遠く離れた位置にあります。そのような地域ならではの難しさやご苦労があればお聞かせください。

小笠原諸島はユネスコの世界自然遺産に登録されているため、地域の人たちの自然に対する意識は高いほうだと思いますし、自然を守ることに関する話は通りやすいですね。
ただし、海洋ごみの取り組みに関しては、やはり本土から遠く離れていることのデメリットは小さくありません。何と言っても産廃の運搬費用が非常にかさみます。回収したごみは1立方メートルのフレコンバッグに詰めて本土に運んで適切な処理がされるのですが、その費用は1袋あたり3万円を優に超えます。
このコスト削減が大きな課題で、打開策として考えているのが、ごみを細かく砕いて袋に目いっぱい詰めることです。例えばブイのように、海ごみは軽い割にかさばるものが多いので、砕いて処分できれば袋の数を減らせてかなりのコスト削減が期待できます。そうした用途に使える破砕機は非常に高価なのが難点ですが、どうすれば導入できるか、まさに今、検討している最中です。

現代は、ネット通販で誰でも簡単に何でも買えるようになりました。特に商店がとても少ない島では、ネット通販の需要は本土とは比較にならないほど高いと感じます。自分も何度も経験して反省していますが、手に取って選べない分、想像と違う、サイズが合わない等、使わない、使えないまま家の肥やしとなっている物は少なくありません。
また、定期船が週に1便しかない離島ゆえに、日数や高い送料がかかる返品も億劫になり、貰い手なければ廃棄ということもよく耳にします。一人一人の注意が大切ですが、ごみを増やしやすい環境かもしれません。

猪村さんご自身の思いを含め、今後の活動に向けた抱負をお聞かせください。

立ち上げメンバーと同じく、私も自然が大好きで、20年ほど小笠原海洋センターでザトウクジラやアオウミガメの保護・調査に携わっていました。2009年に、海岸清掃時にウミガメの産卵巣を回避するための指導員として声が掛かったのが、BOISSや海ごみと関わることになったきっかけです。現在は、嫁ぎ先の民宿の女将業の傍らBOISSの海ごみ回収業務や環境教育に携わっていますが、長年携わったウミガメ調査時にできなかった「ウミガメの産卵浜、子ガメがふ化する浜をきれいにする」という気持ちが、きっと人よりは強いな・・・と感じます(笑)。

また、人の価値観はそれぞれなので、なかなか難しいですが、海で回収したごみや日常で出る生活ゴミのリサイクルも推進しつつ、使い捨て商品を使わない工夫、物を大切にする心、本当に必要かどうかを考える力、物の生産や不始末が自然界に与える影響、そういう「想像力」を身に付けられるような教育活動にも力を入れたいと考えています。

BOISSはメンバー全員が本業を持ちながら活動していることもあり、なかなか人材育成まで手が回りませんが、今後さらに活動の幅を広げ、若手スタッフの育成、さらにはそのスタッフが常駐できるまでを視野に入れ、活動を継続していきたいと思っています。